[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3] 千代田 桃 : 「……ここにいたんだ。探したよ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : キャンバスから顔を上げ、その声の方に顔を向ける。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あ、桃ちゃん」
[メイン3] 千代田 桃 : 美術室の引き戸の音に遅れて、やや低めの声が美術室に通る。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「探してたって、私を?」
絵を描く手を止めて、桃に尋ねる。
[メイン3] 千代田 桃 : 桃、と呼びかけられた小さな影はそのまま橙髪の少女に近寄る。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……。他に誰もいないみたいだし。千代の方こそ、こんな遅い時間まで部活?」
[メイン3] 千代田 桃 : その答えはなんとなくぼやかしつつ、きょろきょろと周囲を見回す。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「…遅い時間?」
ふと時計を見上げると、時刻は既に夕方。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「わわ!いつの間にこんな時間に…」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「うん!桃が言う通り部活だったんだけど…」
同じように周りを見回して。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「熱中してたらみんな帰っちゃってるみたいだね」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : たははと笑う。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……千代らしいね。……熱中するのはいいけど、あんまり遅いと見回りの先生に見つかっちゃうよ」
[メイン3] 千代田 桃 : 「丈槍先生みたいな先生だったらまだいいけど、面倒な先生に見つかったら…」
[メイン3] 千代田 桃 : 小さく肩をすくめる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「…もしかして心配して探しに来てくれたの?」
[メイン3] 千代田 桃 : 「……。」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 肯定…でいいのかな?
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「えへへ。ありがとう」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「そうだね。もう遅いから帰り支度しないと」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : そそくさと片付けを終わらせ、荷物を持って桃の方へ歩いて行く。
[メイン3]
千代田 桃 :
「……そういうことにしておいてもいいよ」
照れ隠しに荷物を背負いあげて顔を隠す。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……。……千代は、美術部……楽しい?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あ、その仕草、漫画のヒロインみたいでかわいい。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「うん!私は絵を描くの好きだから楽しいよ」
桃にコクリと頷く。
[メイン3]
千代田 桃 :
「そっか。……夢中になれるものがあるのはいいことだね」
自分のまだあまり知らない千代のことを少し探るように。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……他の部員とは、どう?」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「そうだね…大体みんなと仲良いよ」
うんうんとうなずきながら。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……そうなんだ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「みんな優しいからね。そうだ!桃ちゃんも美術部に入ってみる?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 桃ちゃんは部活に入っていないって前に聞いていたことを思いだしていた。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……。……私はいいかな、千代ほど人と交わるの得意じゃないし」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「そっか。ちょっと残念だな」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : そんな、夕陽の指す美術室の廊下に、たたたた、と足早に廊下を歩く音が。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………!……見回りだ」
その音に反射的に振り向く。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 足音の方に顔を向ける。
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
鞄をぎゅっと、胸に抱え、俯き姿勢のまま、美術室を素通りしようとしていた。
行先は、方向的に、昇降口である。
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
美術部員でありながらも、あまり美術室に足を運ばない生徒であり
その存在感も薄く、美術部での認知度も低い。
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
ちらりと、その少年は教室の方へ、小さな黒目を向け
千代と桃の二人を見た後、またすぐに視線を地面に落とす。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「…見回りじゃなくて、同じ美術部員の小早川くんみたいだみたいだね」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「お~い!」
と声をかけてみる。
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
「っ………!」
びくりと、肩を上げながら。
[メイン3]
千代田 桃 :
「へぇ……」
そのまま千夜が声のかけた方へと視線を向ける。
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 「………ど、どうも、です……」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 小さな、か細い声で、二人へ小さく御辞儀をし。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「急いでるみたいだけど、なにかあったの?」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 「え、あ、そ、それは………その、帰ろうと、思いまして……」
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
「……そ、それだけです……すみません……」
再度、千代へ頭を小さく下げる。
[メイン3] 千代田 桃 : ぱちぱちと目を動かして、黙ってそのやりとりを眺める。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : ちょっと詮索したみたいになっちゃったかな?
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あ、うん。急いでるなら呼び止めちゃってごめんね」
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
「あ、い、いえいえっ……そ、その、佐倉さんも、その……
ぶ、部活動、頑張って、ください……」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : ぺこぺことしながら、足の先は昇降口の方へ。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………千代の友達?」
……なんとなく、少年に向かって声が出た。
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
「っ……… ……そ、そんな、烏滸がましい、です……
……た、ただの、部活仲間……ぁ……いえ……し、知り合いで……」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 視線を逸らしながら、困り眉で。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「小早川くんはとっても絵が上手いんだよ」
勝手に紹介している。
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 「カヒュッ」
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
「そ、そそそ、そんなことは、ありませんっ……!
さ、佐倉さんの方が、僕よりも何倍も、何十倍もお上手でして……」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 「か、かかか、帰ってもよろしい、でしょうかっ……」
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………。そっか」
「へぇ……千代が言うくらいだから、よっぽどだね」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「私は模写は得意だけど応用は苦手で…」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あ、ごめんごめん。急いでるんだったね」
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : は、はいっ……すみません……。と、へこへことしながら、佐倉に頭を下げ。
[メイン3] 小早川 晶(こばやかわ あきら) : 「お、お二人も……そ、その……頑張って、ください……」
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………。」
黙って頷く。……あまり踏み込む方ではないし。
元より……友達の知り合い程度だ。
[メイン3]
小早川 晶(こばやかわ あきら) :
何に対する頑張ってなのか、定かではない、コミュ障な少年であり。
そのまま、足早に去って行った。
[メイン3]
千代田 桃 :
「う、うん……」
頑張って、って……千代はともかく、私は何を……?
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「ばいばい!また明日」
去って行く小早川に小さく手を振る。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「小早川くん、ちょっと人付き合いが苦手みたいなんだよね」
[メイン3]
千代田 桃 :
「……。……まあ、ちょっと変わった人だったね」
人付き合いの悪さ……は、私もあまり言えたことでもないけど。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……それより、私たちも帰るとこだったよね。……門、閉まっちゃうよ」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「絵は本当に上手だから、もうちょっと自信を持ってもいいと思うんだけどなぁ」
彼にも色々あるんだから勝手なこと言うのは良くないけど。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 桃の言葉にはっとなる。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「そうだった!閉まっちゃったら困るから急ごう!」
桃の手を取り、昇降口へ向かう。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……!……ちょっと…」
[メイン3] 千代田 桃 : 千代に手を引かれるままに、美術室を出る。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 心配して探しに来てくれた桃ちゃんにこれ以上迷惑をかけてしまっては悪いので急ぐ。
[メイン3]
千代田 桃 :
……部屋を出る間際、夕焼けに映えて赤く照らされる部屋に。
隅でひとつ、ななめに傾いたままの椅子が映る。
[メイン3]
千代田 桃 :
……そんな風に、自分が周りからはみ出た存在だと気付いていても。
何かのきっかけで、簡単に長所に変わってしまえたら……いいのに。
[メイン3] 千代田 桃 : ……詩作部に入る才能は、なさそうかな。
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) :
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
事件は解決した。
…だけど、私は精神病にかかってしまった。リスクを承知で過去に来たわけだから受け入れるしかないんだけど。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
毎日治療を続ける必要があって、今日も由紀先生の元へ向かっている途中だ。
桃ちゃんの似顔絵ばかり描いているスケブもとりあえず持参している。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : …なんだか持っていると落ち着くから。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
歩いていると、ピンクの髪をした女の子を見かけた。
どことなく誰かに似ているような…?
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「こんにちは!」
ニッコリと笑顔でその女の子にあいさつする。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………!」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : しまった!突然知らない人に話しかけられたら驚くよね。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………こんにち、は」
[メイン3]
千代田 桃 :
千代の想像通り、いきなりの声に少し怯えるような動作をしつつ。
[メイン3] 千代田 桃 : そのままそそくさと立ち去ろうとする。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「あ、待って、行かないで!」
何故かその子のことが気になって引き留めてしまう。
[メイン3]
千代田 桃 :
「……」
びく……と足を止め、一呼吸置いてから振り返る。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「ご、ごめんね。あなたがちょっと知り合いに似てたから。つい声をかけちゃったの」
ぺこりとお辞儀をして謝罪の意を示す。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……?」
[メイン3] 千代田 桃 : 「……私が?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : コクリと頷く。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「うん。この子なんだけど…」
スケブをめくり、桃ちゃんの似顔絵を見せる。
[メイン3] 千代田 桃 : おずおずと覗き込んでいたが、やがて興味ありげにぺらぺらとページを捲る。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「ピンク色の髪とか、青い目とかそっくりでしょ」
[メイン3] 千代田 桃 : こくこくと頷く。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……お姉ちゃん、絵、上手だね。……将来は漫画家さん?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「褒めてくれてありがとう。う~ん…水彩画は得意なんだけど、漫画は描けないんだよね」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : アシスタントならできるかな。なんて言いながらえへへと笑う。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「この似顔絵の子とは友達なんだ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「といっても、まだ友達じゃないんだけどね」
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………???」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : わかんないよね、私もわかんないんだよ。
[メイン3] 千代田 桃 : 怪訝そうな顔で千代を見つめる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「未来の友達、みたいな?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「でもきっと、また友達になれるって私は確信してるんだ」
[メイン3] 千代田 桃 : 「……ケンカしてるの?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「…どうだろう。もしかしたら怒ってるかもしれない」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あの時、一方的に約束して、桃ちゃんの返事は聞いてなかったし。
[メイン3]
千代田 桃 :
少ししゅん、とした顔になる……が、すぐに向き直って。
「……なれると思う。……お姉ちゃん、優しいし」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「ありがとう。そう言ってくれるあなたも優しいよ」
ニコリと微笑む。
[メイン3] 千代田 桃 : 照れるように、顔を少し斜め後ろに向ける。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : こういうところ本当に似てるなぁ。
[メイン3] : 「千代ちゃ~ん…!」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 遠くの方から私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
その声の方を見ると、由紀先生の姿があった。
私が遅いから心配して探しに来てくれたのかな。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「あっ、ごめんね。私もう行かないと」
スケブを抱えて歩き出そうとする。
[メイン3]
千代田 桃 :
「あ……」
反射的に千代の袖をぎゅう、と握る。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「…うん?」
袖を引かれ、立ち止まる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「どうかしたの?」
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………話してくれて、ありがと。……また見せてね」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「…うん!」
その言葉に笑顔を見せて強くうなずく。
[メイン3] 千代田 桃 : にこ、と小さく子供っぽい笑みを返して。
[メイン3] 千代田 桃 : 握っていた手を開き、ばいばい、と振る。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
同じように、ばいばいと手を振ったあと、由紀先生の元へ駆けていく。
その間に何度も振り返りながら。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) :
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : その後も毎日のように由紀先生のところに通っていたけど、あの時出逢った女の子とは結局二度と会うことはなくて、次第に私の記憶も薄らいでいった。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : そして7年後…。
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3] 千代田 桃 : ────むくり。
[メイン3] 千代田 桃 : ……陽の光を浴び、ベッドから体を起こす。
[メイン3]
千代田 桃 :
目覚まし時計も先生も、その寝坊を咎めることもできない……長閑な休日。
……ああ、いや……メタ子はいるか。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………。」
[メイン3]
千代田 桃 :
目頭を軽く抑える。
先ほどまで眠っていたはずなのに体が重い。頭が重い。
……ついさっきまで……泣き腫らすような、長い悪夢でも見てたみたい。
[メイン3] 千代田 桃 : ……それでいて、どこか暖かい……懐かしい夢に救われた気も、するけど。
[メイン3]
千代田 桃 :
……ふと、窓の外を見る。
いつもと変わらない澄み切った空、平穏な世界で──
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3] 千代田 桃 : CCB<=40 幸運 (1D100<=40) > 29 > 成功
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3] 千代田 桃 : …………。
[メイン3]
千代田 桃 :
あの日の……いや、ついさっきの出来事が、いつまでも頭の中にある。
刹那の時が、まるで七年もの重みを持つように……私を苦しめる。
[メイン3] 千代田 桃 : あの時、私は自分を変えられなかった。
[メイン3]
千代田 桃 :
……それでも、こうして運命が私を生かしてくれるのなら。
せめて……呪いに抗わなければならない。
[メイン3]
千代田 桃 :
……小さく伸びをして、ベッドから立ち上がる。
支度しないとな、そろそろ。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……友達との、約束があるから」
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) :
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あの後、何事もなく中学生になって、桃ちゃんともまた友達になって、そんな感じで7年の月日が経った。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
今日は休日。昨日桃ちゃんと約束した喫茶店へ向かっている。
あの時の約束とは内容が変わったけど、そのおかげで戻って来られたって実感が湧いているのも事実で。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「………」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 喫茶店の前に立ち、扉に手をかける。何故か緊張している。なんでかはわからないけど。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
意を決して店内へ。
そして桃ちゃんは来てるかなと店内を見回す。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………何してんの。挙動不審だよ」
[メイン3] 千代田 桃 : 不意に、後ろから声がかかる。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「!!!」
びくりと肩が跳ねる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 振り向くと桃ちゃんがいた。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「び、びっくりさせないでよ~」
[メイン3]
千代田 桃 :
「ん」
軽く手をあげる。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………いや、まぁ……ちょっと面白かったから、いつ声かけようかって……」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
あ、いつもの桃ちゃんだ。
…いや当然なんだけど、なんだか安心しちゃった。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「ふふ…」
ふと笑みが漏れてしまう。
[メイン3]
千代田 桃 :
それにつられるようにくすり、と笑って。
「……まあ、続きは席でやろうか。せっかく来たんだし」
[メイン3]
千代田 桃 :
[メイン3]
千代田 桃 :
「……それで、例の絵は順調?」
届いたパンケーキを頬張りながら。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「うん!順調だよ」
チーズケーキを頬張りながら応える。
[メイン3] 千代田 桃 : 「ん……そっか、良かった。最近遅くまで頑張ってるみたいだしね」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「そうそう。たまに時間を忘れて描いていて、一昨日も桃ちゃんに探しに来てもらったよね」
[メイン3] 千代田 桃 : 「ああ。……それで、確か……」
[メイン3]
千代田 桃 :
ふと、やりとりを思い出す。
「……あの彼、すごいよね。確か、国のなんとか言う賞取ったとか」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あ、そうだよね!すごいよね小早川くん!」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
自信を持った彼は以前の彼とは違っていた。
絵も精力的に描いていて部内でも一番になっていた。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……何か一芸持ってるのは羨ましいね。きっと将来は画家さんかな」
[メイン3] 千代田 桃 : ……ま、私にとっては千代の絵も文部科学大臣賞くらいはあると思うけど……と、茶化す。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あはは。そんなことないよ~」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 照れながらチーズケーキをバクバク食べる。
[メイン3] 千代田 桃 : …………照れ隠しのつもりなのかな、それ……
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………っと、ごめん。ちょっとトイレ……」
そのまま席を立とうとして。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………それ、次の構想?」
[メイン3] 千代田 桃 : 千代の鞄の隙間から覗いていたスケッチブックをひょい、と持ち上げる。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「…へ?」
桃ちゃんが取り上げたスケブの方を見て。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あれ?あんなの入れてたっけ?
[メイン3] 千代田 桃 : 「ん、やっぱりよく描けて……」
[メイン3] 千代田 桃 : (……え?)
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : その様子を見てきょとんとする。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………。」
[メイン3] 千代田 桃 : ……ええと。
[メイン3] 千代田 桃 : …………みるみる赤らんでいく顔を見られないように、慎重にスケッチブックで隠したままくるり、と千代にも見えるように回して。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………あの。……私だよね、これ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「……!?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : な、なんであのスケブが!?
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 机の奥にしまっていたはずなのに…!?
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「あ、えっと、その…」
しどろもどろになって上手く言葉が出ない。
[メイン3] 千代田 桃 : ぷるぷるとスケッチブックを握る手が震える。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……あ、あの……しかも、1枚とか2枚とかじゃない……んだね……」
[メイン3] 千代田 桃 : 「………………いや、その……すごく嬉しい、けど……」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「ち、違うの、それは私が描いたんだけど私が描きたくて描いたわけじゃなくて…」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「…え!?」
[メイン3] 千代田 桃 : 「えっ……じ、じゃあ……誰かに頼まれた、とか……!?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「う、上手く説明出来ないんだよ。そういう状況になってたっていうか」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 見られた焦りと、嬉しいと言われた喜びと気恥ずかしさでさらに混乱している。
[メイン3] 千代田 桃 : 「せっ、説明できない……!?なに、どういうこと……!!?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あ、うう…」
[メイン3] 千代田 桃 : 恥ずかしそうに声が上ずる。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「…わかったよ。信じてもらえないかもしれないけど、説明するね」
息を整え、ひと口紅茶を飲む。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………ん。」
トイレに行こうとしていたのも忘れて、すとんと正面の席に戻る。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「えっとね…」
[メイン3] 千代田 桃 : まだ少し熱い顔を、ひんやりとしたクリームソーダで誤魔化す。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 小早川くんの一件に私たちは立ち向かったこと、そして7年経って、また桃ちゃんと再会出来たことを話す。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : こんなこと信じられないよね。チラリと桃ちゃんの方を見る。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………。」
[メイン3] 千代田 桃 : 「……ごめんね。」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「ふえ?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 想像してなかった言葉に変な声が漏れてしまう。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………っ……」
[メイン3] 千代田 桃 : 「………………ごめんね……7年も待たせちゃって……っ……!!」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「…桃ちゃん」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : ううんと首を横に振って。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「また友達になってくれて、私はそれだけで嬉しいよ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「桃ちゃんはちゃんと約束守ってくれたんだよ」
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………千代……」
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「だから、ありがとう」
ニコリと優しく微笑む。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………っ……!!」
感情がぐちゃぐちゃになる。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………怒って、ないの……?」
「……千代が頑張ろうとしてる時に、酷いこと言って、突き放して……!!」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「だって、私が桃ちゃんの立場だったら、同じことしてたかもしれないし」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「何もわからないのについて行くって、そんな選択は普通取れないよね」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「さっき桃ちゃんが7年待たせたって言ったけど、私も7年待たせちゃってるからさ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「おあいこだよ」
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………。」
ぐす、と目を拭う。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あわわとポケットからハンカチを取り出して手渡そうとする。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………だったら」
手渡されたハンカチを大切そうにぎゅう、と握り。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : うんと頷いて言葉の続きを待つ。
[メイン3] 千代田 桃 : 「約束……守ってくれたのは、千代の方も……だから。」
[メイン3]
千代田 桃 :
「……だから、ありがとう。」
「世界が変わっても……私と一緒に、友達でいてくれて。」
[メイン3] 千代田 桃 : 涙を浮かべたまま、にい……と笑ってみせる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 桃ちゃんのその笑顔を見て、自分も笑顔を見せる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「こちらこそ、ありがとう!」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : やっぱり桃ちゃんは優しくて、私が知ってる桃ちゃんだよ。
[メイン3]
千代田 桃 :
……うん。
……私の知ってる千代は、優しくて……やっぱり、お人好しすぎる。
[メイン3] 千代田 桃 : ……でも、そんなところが……千代らしくて、私は大好き。
[メイン3] 千代田 桃 : 「……ふふっ」
[メイン3]
千代田 桃 :
…………それでも……ああ。
やっぱり……千代の優しさには叶わないなあ。
[メイン3] 千代田 桃 : だって。
[メイン3]
千代田 桃 :
・・・・・
「──約束。……ふたつとも、守ってくれるんだもんね。」
[メイン3] 千代田 桃 : 聞こえないほどの声で、ぼそりと呟く。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「………?」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : なにか言ったように聞こえたけど聞き取れなかった。
[メイン3]
千代田 桃 :
「……ああ、ううん。……でも、全部吐き出したら……また、お腹空いてきちゃった……かも」
そう言いながら、店員に声をかけて誤魔化す。
[メイン3]
千代田 桃 :
風の気まぐれでめくれたスケッチブックのページに。
あの時見せてもらった、憧れの絵が……ちらりと映って。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「あ、そうだね。私もチーズケーキもう一つ頼もうかな」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あのスケブ返してもらおうと思ったけど、なんだか嬉しそうだからまだいいかな。
[メイン3] 千代田 桃 : ……また見せてくれて、ありがとね……お姉ちゃん。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 桃ちゃんの思いを知ってか知らずか、店員にチーズケーキのおかわりを注文している。
[メイン3] : ………そんな会話の中、千代がふと窓を見れば、そこには
[メイン3] ベックマン : 「───────────」
[メイン3] 丈槍 由紀 : 「────────」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : あ、ベックマンさんと…由紀先生!
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「ねえ、見て見て、桃ちゃん!」
そう言いながら窓の方を指さす。
[メイン3]
千代田 桃 :
「ん……うん?」
スケッチブックから顔を上げて、指された方を見る。
[メイン3] 千代田 桃 : 「…………あの二人、あんな仲だっけ。」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「…気になるね」
[メイン3] 千代田 桃 : こくん。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 治療で定期的に由紀先生のところへ通っていたけど、ベックマンさんと一緒のところは見たことがなかった。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 私の少女漫画脳が騒ぐ。
[メイン3]
佐倉 千代(さくら ちよ) :
「…こっそり追いかけてみる?」
いたずらっぽく桃ちゃんに尋ねる。
[メイン3]
千代田 桃 :
「…………。……恋路を邪魔する不逞者からのボディーガードなら、任せて」
くすり、と笑って袖をまくる。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 桃ちゃんのその仕草に笑顔を見せ、立ち上がる。
[メイン3] 千代田 桃 : 「────それじゃ」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : 「───うん。行こう!」
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : そして私たちは喫茶店を飛び出す。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : こっそり追いかけるけど、多分すぐにバレると思う。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : でも、私たち4人が揃った状況はあの時とは違って。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : みんな笑顔で、きっとこの先も続いて行く。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) : そんな希望に満ちたものになるはずだ。
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) :
[メイン3] 佐倉 千代(さくら ちよ) :